ブルームーン②ルミとの会話~ローハー

 

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ユタカ:浮かれてんな。

オサムとはま子の前では明るく振舞っていたルミだったが、ユタカと2人きりになると気まずい雰囲気が流れた。

ルミ:…ごめんね。急に、来ちゃって。電話もごめん、なかなかできなくて…

ユタカ:留守電聞いた?

ルミ:うん、会ってちゃんと話せる時にって思って

ユタカ:会って何を話すつもりだったの?

ルミ:この間の中華街のこととか…

ユタカ:うん…

ルミ:なんか誘われて、断れなくって

ユタカ:何回か誘われてるって言ってた人だよね?

ルミ:でも、あの人とは何もないから!

ルミが他の男性と中華街を歩いているところを目撃してしまったユタカ。ルミは何もなかったと否定するが、ユタカはおもむろにさっきどこからか降ってきたタップシューズを手に取った。

ユタカ:これ、知ってる?

ルミ:何?

ユタカ:誰かのタップシューズ。ここに落ちてた。

ルミ:何で?

ユタカ:知らない

ルミ:いやいや、何で私に聞くの?

ユタカ:あの人、ミュージカルの俳優さんって言ってたっけ。

ルミ:ダンサー

ユタカ:顔、見損なっちゃった。売れてる人なの?

ルミ:うえっ!!あの人のって言うの!?

ユタカ:ありえないでしょ!ここに連れてきたとか。

ルミ:じゃあなんで

ユタカ:中華街で手をつないでるのも、ありえないと思うからさあ!

さっきオサムにはルミの仕事仲間のタップシューズなわけがないって自分で言っていたのに、あまりの困惑にかルミを疑ってしまうユタカ。ルミもまさかよく分からない靴まで疑われるとは思っていなかっただろう。

ルミ:あれは、断れなくって…

ユタカ:じゃあ、何だったら断れるんだよ!食事と手をつなぐのはOKなんだよね!?

ルミ:なんかぁ!あの人アメリカに行くらしくって。ダンスの勉強で3か月。一緒に行かない?って言われて、でもそれはわたしきっぱり断ったんだ!

ルミはどうだ!という顔でユタカを見る。

ユタカ:いや、当たり前だよね?きっぱり断ったんだ!って声高に言うことじゃないよね?

ルミ:うん、まあ…

ユタカ:てか、アメリカって仕事やめて俺と結婚しない?ってくらいの話だよねえ

ルミ:どこかで遊びに来ないか?って

ユタカ:わかりづら…

ルミ:ごめん

ユタカ:てか、何もなくってアメリカ誘う?

ルミ:なんかぁ!ひとりで舞い上がる人なんだよね~ 俺を完全にサポートできるのはルミちゃんだけ~☆って

ユタカ:お前が誤解されるような態度とったんだろ?

そのあとも、2人の言い争いは終わらない。ユタカはきっぱり断らないルミが悪いと責める。

ルミ:わたしが悪かったよっ

いつまでもしつこいユタカにルミが悪かったと伝えるが、気持ちはこもっていない。

ユタカ:(いーーーーっ!ふうう。きーーーーーーっ!!)お、おーちゃ入れよっか

歯をむき出しにして、子供のように怒りを露わにするユタカ。でも何とか怒りを抑えて水を取りに行く。

ルミ:わたし入れるよ

ユタカ:いいよ!入れるからあ!!!ああぁ、腹減ったな~

ユタカはそう言いながらルミの顔色をうかがう。

ルミ:(…ぷいっ)

そっぽを向いて反応を返さないルミ。

ユタカ:(いーーーーーーーーっ)

歯をかたく食いしばり怒りをおさえるユタカ。ふと目をむけた先にはあの古時計があった。

ユタカ:きっも…

どうやらまた時間が戻ってしまっているようだ。ルミに時間を確認して時計の針を直す。ルミも不思議そうだ。

 

ユタカ:…なあ、今もそいつが出るミュージカルの製作やってんの?

ルミ:今は次の稽古。本番だったら土曜、休みにならないし。

ユタカ:それ、いつ終わるの。

ルミ:7月

ユタカ:それ終わったら、ひま…?

ルミ:え!…なんで?

椅子に座っていたルミが、ようやくユタカの方を向いた。ユタカは階段に腰かけていた。

ユタカ:たまには、どっか遊びに行きたいなって…

ルミ:お盆は忙しいんでしょ

ユタカ:どっか行こうよ!

ルミ:どっかて?

ユタカ:いや、アメリカには行けないけどさ。近くで温泉とか。

「アメリカ」という単語は、今のルミにはNGワードだ。

ルミ:アメリカには行かない!って言ってるでしょ!!なんなの!?

ユタカ:人が気分変えようと思って誘ってんのにのらないからだろ!

ルミ:ちょっと、しつこいよ!

まさかここまで怒られると思っていなかったユタカ。ルミに言い返そうとするも…

オサム:おいユタカー!あったぞ!

ユタカ:くっ(きーーーーーっ!!!!)

空気が読めるのか読めないのか、オサムとはま子が戻ってきた。何やら、さっき話していたはま子の父、トニー河村の記事を見つけたらしい。にぎやかで楽しそうな2人とは対照的に、ユタカは怒りをぶつけるところがなく階段でジタバタしている。

オサム:はま子さんのスマフォにあった!

はま子:ふふ、わたしのスマフォじゃありませんよ。どっかのホームページに。

オサムは画面を見つめ、映画の説明を読もうとするが見えない。

オサム:あー、老眼きっつ。…あ!もーう、タッチパネルが大嫌い。

指があたって画面も変えてしまったらしい。

ユタカ:もういいよ!俺がやるから!

オサムからスマフォを奪い、ユタカが代わりに見ることに。しかしスマフォを渡した後も、画面が気になるのかユタカにぴったりなオサム。

ユタカ:離れてよ、うっざいなあ!

オサム:だって見えないからぁ

ユタカが移動しても金魚の糞のようにくっついてくるオサム。後ろから画面をのぞきこむようにして、ユタカの肩にあごをのせる。

ユタカ:うあーーーーーー!読み上げるからああ!はなれてええええ!!!

ユタカの怒りっぷりがおもしろかったのだろう。それを真似するオサムと、それを見て笑うルミとはま子。プンプンなユタカをこれ異常刺激しない方が良さそうだ。

オサム:どうぞ!読み上げちゃってくださ~い!

はま子の父が主演をつとめた映画の名前は、「時をかける靴」。戦争のはじまる直前、昭和12年に作られたもので公開はされていない。ストーリーは魔法の靴で時空を旅するというもの。未公開ではあったが、カリフォルニアで古いフィルムが発見され、マニアの間で上映会も行われたそうな。

ユタカ:ひょんなことから魔法の靴を…って、どんなひょんだよ

はま子:自由な映画ですねえ

ユタカはあまり興味がなさそうだ。一方、ルミはトニー河村の顔こそ見たことはなかったが名前は知っていた。仕事の資料集めの時に見たらしい。トニー河村の話題で盛り上がる3人と、ユタカの姿がそこにはあった。

ユタカ:ねえ!これいつまで続くの!!

はま子:すいません…

ユタカ:いや、あの。おなかすいたなあって…

オサム:待てよ、ちょっとくらい

ルミ:着替えれば?

オサム:そうだよ、そんな恰好で

いつまでも汗をかいたTシャツのままでいるユタカを、みんなが着替えるように攻めたてる。

ユタカ:(きーーーーーっ!!)なんだよみんなしてぇ!…あっ、また。

例の古時計を見ると、また時間がおかしくなっていた。完全に壊れてしまったようだ。

オサム:いいから、もう。早く着替えてこいよ~!

みんなからのけ者にされたユタカ、何だか少しさみしそうに、そして不安そうに着替えに行く。…が、すぐ戻ってくる。

ユタカ:あのさぁ、父さん!ぜっっったいに余計なこと言わないでよねえ!!

オサム:わかってるよ!

ユタカ:うあーー

さっきまで結婚について話していた為、釘をさしに来たユタカ。オサムに念を押したあと今度こそ着替えに奥の部屋へと行った。

 

ユタカ:あいつはさ、ああいうとこが馬鹿だよね。黙ってりゃいいのにさ。ああ言えば、ルミちゃんも聞きたくなるし俺だって喋りたくなるよねえ。

はま子:あ、ありました!これね、母と結婚したときの写真。

ルミとオサムは、はま子のスマフォをのぞきこむ。

ルミ:あんまり昔の人の顔っぽくない!

はま子:わたし、似てますかしら?

オサム:そうですね、お母様よりも!

はま子:そうかしら~♪うふふ

父に似ていると言われて嬉しそうなはま子はご機嫌な様子で、台所へと戻って行った。

オサム:はま子さんファザコンだな。

ルミ:わたし無いな~

オサム:えっ お父さん苦手?

ルミ:結構、厳しいから。

オサム:でもファザコンじゃない方が、旦那になる人は…(もごもご)

ルミ:えっ?

これがユタカの言っていた「余計なこと」なのだろう。いきなり約束を破りかけたオサム。そんなことを知りもしないルミは、もう故障して使えない古時計を壁から外そうとしていた。

オサム:いや何でもない!仕事はどう?

ルミ:きっと…辞めます。

どうやら大人の事情があるらしい。

~♪

時計を机に立てかけて雑巾でホコリをふいていると、また音が流れ始めた。

ルミ:すごい!本当に逆回り!あっ、もう1回やってもいいですか?

なんだか面白くなってきたのか、ルミはそう言って針を戻し、数分後にまた時計が鳴るように時間を戻した。

オサム:ルミちゃんはさ、本当はどんな仕事がしたいの?

ルミ:誰かのサポートがしたいっていうか…正直、私の全生涯をかけてサポートしたくなるようなタレントに会ってないっていうのもあるんですけどね

オサム:そそそそ、それ、それはさぁ。タ、タレントじゃないとダメ…ダメかなぁ

ルミ:えっ?

オサム:なんでもない!

また「余計なこと」を言うオサム。

ルミ:もーう(笑)…あ!これトニー河村の寄贈になってる!

さっきまでホコリに隠れていたが、時計の裏には文字があった。この年に何があったのだろうか。「道を見せてくれた方々へ」の文字も刻まれていた。

オサム:え~ その頃の住職は、確か亀吉…亀五郎・・・亀…亀十一 ちょっと待って!調べてくるから!かめ、かめ…

名前に亀の文字がつくのだろうか。オサムは先代の名前を確認しに奥の部屋へと去って行った。相変わらずのオサムの明るさ・陽気さに思わず顔をほころばせながら、不思議な古時計を眺めていた。すると…

 

ガタッ

謎の男性:あれ?

ルミ:えっ!!!!!!!

謎の男性:ローハー♪

 

…変な男が、2階から急に現れた。