ブルームーン③トニーとの出会い~消えるユタカ

 

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謎の男性は「ローハー」という謎の挨拶とともに、急に2階の窓から現れた。

 

謎の男性:ああ、ご存知じゃないか。ハローの逆。今流行ってんの。いくよ?ローハー♪

ルミに返事を求める。

ルミ:どど、どうも~

謎の男性:・・・頑なだねえ。それよりケイト知らない?

ルミ:ケイト…さん?

謎の男性:そう、ケイト。僕の共演者。…そもそも、どちらさま?

ルミ:ああ 蒲谷ルミと申します。こちらの、住職の、息子さんの友達で!

謎の男性:あの本山で修業中だっていう?

ユタカは本山ではなく、この寺に居る。この男性が何を言っているかはよく分からないが、何だか顔に見覚えがある気がする。しかもついさっき…

男性が部屋から出てきた。燕尾姿、整えられた髪、スラリとした体形。

ルミ:あああ!!!!

謎の男性:見たい?

そう言って男性はポーズをとる。それはまさしくさっき見た写真のまま。この男性ははま子の父、トニー河村だった。

トニー:高いところから話しているのが申し訳ないので、タッタカ降ります。

トニーは言葉通り、タッタカとリズミカルに階段を降りてきた。近くで見れば見るほど、今起きている状況が分からずにただ悲鳴をあげるルミ。それもそうだ。死んだと聞かされて、さっきまで携帯で写真を見ていた男がここに現れ、タッタカと階段を降りてきたのだから。

ルミ:やばいやばいいい!!

トニー:はい、サービス!

と言ってお決まりのポーズを見せてくる。その迫力は想像以上。

ルミ:多分、そのケイトさんって方はここにはいらっしゃらないかと…

トニー:どこに行ったの?

ルミ:うーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん

トニー:うーーーーーーーーーーーんって、ケイトはどこに行ったか聞いてるだけだよ?

ルミ:最後にケイトさんに会ったのはいつですか?

トニー:じゅっ…うーん20分くらい前かな

ルミ:どこで?

トニー:ここで

トニーは今いる場所、寺の待合室を指さした。

どうやら、トニーは映画の中で踊るダンスの振り付けを考えていたらしい。監督がテキトーなため、今日の振り付けは、主演のトニーが今日考えなければならないようだ。ケイトとはご飯を食べる食べないの件で、喧嘩したらしい。

 

今回の振り付けにはタップを取り入れたいと考えたトニー、しかし靴が片方無かったとのこと。靴を探していたら、どこからか時計の音が聞こえて、そして目の前が真っ暗になり、今に至るらしい。

今起きている状況に何も気が付いていないトニーはとても陽気で、マイペースな男だった。

 

トニー:あははは、ぼくいきなり喋りすぎだよね。…うん?この時計どうしたの?

ルミ:ああ・・・(どう説明しよう)

トニーはテーブルの上に置いていた例の古時計を見つけた。どうやらこの時計を見たことがあるらしい。それもそうだ、この時計の裏にはトニー河村が寄贈したと刻んであるのだから。

トニー:小学校の近くの時計屋さんで買ったんでしょ?デザインがいいよねえ。いつ買ったの?あ!でも少し疑問。やけに古くなっている。

寄贈したのが戦争時期なら、トニーが古くなっていると感じるのも無理はない。説明のしようがないルミは壊れているのを理由に部屋の隅っこへと時計を運んだ。

 

ルミはトニーにテーブルの上のお煎餅を勧める。

トニー:ぼく煎餅はあまり好きじゃないんだ

ルミ:じゃあチョコレートのクッキーとか

そう言ってお菓子の袋を差し出す。

トニー:えっ、何これ。

ルミ:クッキーです…

トニー:えっ何これ!ひとつひとつ袋に入ってんの?もったいない!!

…これ、どうやってん開けんの?…開けてよ!

クッキーの袋に興味津々のトニー。開け方の分からないトニーに、ルミが袋の開け方を教えてあげる。

トニー:はっはー!横浜も近いしね!ハイカラなものだね!テンキュソマッチ!

開けてもらったクッキーを両手に持ち、おそるおそる口にする…

トニー:……おいし。ん!ん!んー!!んー!!

あまりの美味しさに、一気に食べようとしてのどにつまさせるトニー。膝と胸を交互に、リズミカルにたたく姿がなんだか面白い。ルミが急いで水をついで持ってくる。

トニー:テンキュ!

一つ食べ終えたあと、「んっんっー…もー うひとつ…」とおねだりするトニー。どうやら気に入った様子。もうひとつは大事に内ポケットにしまった。

 

トニー:撮影、2時からで変更はない?

ルミ:すいません、それは…

トニー:そうだよね、きみ寺関係だもんね。じゃあこの靴知らない?

ルミ:それなら!!

トニーの足元を見ると、片方だけタップシューズを履いていた。さっき寺に落ちてきたというタップシューズ、ユタカともめた原因の一つでもあるこのタップシューズは、どうやらトニーの物のようだ。

トニー:テンキュ!…まさかきみ、踊れたりしないよね?今日は「ブルームーン」で踊るんだ。

新しいステップを試したいというトニー。

ルミ:じゃあ、曲流してみましょ!確か、ジャズ名曲集のCDが。

トニ:ししし、シー

ルミ:ああ、レコードみたいなものです~ あっ!あった!

~♪

トニー:うん、同じだ。ちょっとおさらい…

ブルームーンに合わせてタップを踏むトニー。

 

ルミ:すごい!!やっぱり、本物のトニー河村!

トニー:ぼくに偽物、いないよ!

ルミも気分が上がってきたのか、一緒に踊ることに。トニーがリードして、ルミがそれに合わせる。

トニー:トラストミー!

ルミ:??

トニー:ぼくを信じて

ルミ:アイビリーブィンユウ!

 

ブルームーンの優しい音に合わせ、なんだか良い雰囲気の二人。そこに扉が開く。ユタカだ。あまりの驚きの光景に、開いた口が塞がらない。

ユタカ:何やってんだよーーー!!!!

ルミは慌ててラジカセをとめる。

ユタカ:その靴・・・あなたのだったんですね!あなた誰ですかああああ!!

トニー:あなたこそ誰ですかああ

怒るユタカと何故か急に怒られて戸惑っているトニー。

ルミ:この人は2階から

ユタカ:なんだよ2階って…なんだよ2階ってえ!

トニー:そこの部屋に1週間前からお世話に

ユタカの頭の中では完全に目の前の男=中華街の男だった。それも仕様がない、ユタカが例の中華街の男と勘違いするには十分すぎるほどの材料がそこにはあった。

しかし目の前の男はトニー河村。ルミもこれ以上ユタカを怒らせない為に、トニーにアイコンタクトを送る。しかしこれが逆効果。2人のアイコンタクトに気が付いたユタカは

ユタカ:そういうことだろ?もう!!

ルミ:ちょっと!聞いてよ!!!!

ユタカは階段を上がり、2階の部屋へと閉じこもる。そこにあの時計の音が聞こえ始めた。

トニー:あっこの旋律。この音がさっきも流れたんです。

 

時計の音が止む。ルミはトニーの一言に嫌な予感がした。時計の音とともにこの部屋にやってきたトニー。そして今再び流れた時計の音。

 

おそるおそる扉を開く。

 

 

しかしそこにユタカの姿はなかった。